|
『以上が、ナイトオブゼロ・枢木スザク卿が遺した日記の内容となります』 女性の声が聞こえたと同時に、ガタガタと大きな音が鳴り響いた。 *** 画面は切り替わり、大きなモニターを背にした人物が二人映し出された。一人はブリタニアでこの人を知らない者はいない。とまで言われている金髪の美女で、もう一人は年配のベテランニュースキャスターだった。今表示された内容に、驚きを隠せないまま、年配のニュースキャスターは女性を見た。 「これは一体どういう事なのでしょうか?こちらの手帳、いえ、ナイトオブゼロ・枢木スザク卿の日記を極秘入手した当局のアナウンサー、ミレイ・アッシュフォードに話を聞いてみましょう」 僅かに興奮した声で話を振られ、ミレイは真剣な表情で頷いた。 「はい。この手帳は、ナイトオブゼロが使用していた部屋から発見されました」 そう言った彼女の手には黒い革製の手帳があり、そのページを開きカメラに見せた。 たしかに、お世辞にもきれいとは言い難い文字がそこに並んでいた。 「これは、ブリタニア語ではありませんね」 「はい、彼の母国語である日本語で書かれていました。内容は、先ほど画面に表示されたものと同じものが書かれており、筆跡鑑定の結果、これはナイトオブゼロ・枢木スザク卿の物と断定されました。指紋の照合も済んでいます」 「では、枢木卿が書いたものだと断定されたわけですね」 「まず間違いはないでしょう。そして、この手帳のあった部屋のクローゼットから、悪逆皇帝の物と思われる私物が入った段ボールも見つかっております」 日記にも記されていた、悪逆皇帝の私物の段ボール。 これは本物だと、思わず喉が鳴った。 「それは、今どこにあるのですか?」 「入っていた物が物ですから、全てはここには持ってきておりません。ですが、証拠としてこちらを用意してきました」 そういうと、ミレイは何やら合図を出した。 その合図で、いつも彼女と行動している青い髪のカメラマンの男性が、何やら運んできた。それはマネキンで、マネキンが着ているのはあの皇帝宣言の日にルルーシュが着ていた黒の学生服だった。 よく見ると、そのカメラマンも同じ服を着ている。 「これは、ルルーシュ皇帝が着用していた制服で、裏のこの部分に名前が刺しゅうされています。これは生徒全員の制服に施されているものになります。こちらにいるのは、同じ学園の卒業生で、今日は当時の制服を着てもらいました」 その言葉に従い、カメラは青髪の青年が裏返した制服部分をアップにする。ルルーシュ・ランペルージ。そう刺しゅうされていた。全ての制服にある事を示すため、青年も自分が着ていた制服のその場所を見せる。 そこには、リヴァル・カルデモンドと刺しゅうされていた。 「ルルーシュ・ランペルージと書かれているようですが?」 ファーストネームは同じだが、ファミリーネームが違っていた。 「はい。ルルーシュ陛下は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアではなく、ルルーシュ・ランペルージと名乗り、一般市民に混ざり生活していました」 その言葉に、周りはざわめいた。 悪逆皇帝は突如姿を現した皇族だった。あの制服から、アッシュフォード学園の事はすぐに知れ渡り、ルルーシュの情報も多く流れたが、本当に本人なのか、よく似た別人ではないかとも言われていた。学園生活を送るルルーシュと、悪逆皇帝がどうしても同一人物とは思えなかったからだ。 弟を愛し、周りに慕われた副会長と、悪逆皇帝が。 「私は、ルルーシュ皇帝が皇族であった頃から交流を持っていましたので、このルルーシュ・ランペルージはルルーシュ皇帝本人で間違いないと証言いたします」 「皇族であった頃から、といいますと」 「その話は、とても複雑な事情が絡む内容となります。今はこの枢木卿の日記の話を進めていきたいのですが」 時間もありませんし、とミレイが言うと、そうですね。ではそれはまたの機会にと、本題に戻ることになった。 *** 「流石ですね。ミレイさんにはいつも驚かされてばかりです」 くすくすと愛らしく笑うのは、合衆国ブリタニアの代表となったナナリーだった。 その隣には、動揺のあまり立ち上ったゼロの姿があり、立ち上った拍子に彼が座っていた椅子は床に倒れていた。 「まさかこのような方法で公表するとは、肝の据わったお方ですわね」 同じく笑っているのは、超合集国最高議長であるカグヤ。 「枢木卿の書かれた内容が本当でしたら、大変ではありませんか?」 合衆国中華の代表である天子までにこやかに笑っている。 他の代表たちは、日本代表の扇でさえ言葉を無くし、大口を開けてモニターに見入っていて、ゼロでさえ動揺しているというのに、三人のこの冷静な反応。間違いなく、この事態を知っていたのだ、この三人は。 そして黒の騎士団として参加し、こちらを見ながら薄く笑っている星刻もだ。 今、超合集国の会議のため各国代表が集まっているこの場で、それまで使用されていなかった巨大モニターの電源が突然入ったかと思うと、この特番が流れたのだから、詳しい内容は知らなくても今日この時間に、ゼロがいる場所でこの放送を見るようにとミレイに言われていた事は間違いない。 「困りましたね、ゼロ。ミレイさんの事ですから、これで終わりではないと思いますよ?」 本当に困っているのか?と聞きたくなるほど、それはいい笑顔でナナリーは言った。 *** 「やってくれるな」 C.C.は顔をひきつらせて画面を見つめた。 緊急特番の事は、今日の新聞でも先ほどまでのCMでも散々見ていて、さて、なにがあるのやら?と興味本位で見てみたらこれだ。 スザクはあの戦闘では死んでいない。 あの後、新たに用意していた皇宮の私室にも戻っているから、自分の身辺整理ぐらいしているとおもったら、何もかもそのまま残していたらしい。 馬鹿か?いや、馬鹿だ。大馬鹿だとため息しか出なかった。 しかも、ルルーシュの私物もそのまま残っているのか。 処分予定だった携帯も何もかも残っていそうだ。 流石、対ルルーシュ専用最強兵器、イレギュラー・スザク。 ルルーシュの策はこいつの引き起こすイレギュラーでいつも壊滅的なダメージを受けてきた。味方となった今も、ルルーシュの策を、ゼロレクイエムを壊しにかかるか。 それも、本人の意思とは関係なく。 だが、何故今頃?と、C.C.は眉を寄せた。 ゼロレクイエム。 ルルーシュの死を持って、世界に平和が訪れてから既に5年。 おそらく彼女はもっと早くに、恐らくは5年前にこれらを手に入れていただろう。 それなのに、なぜ今。 「何にせよ、困ったことになったな、ルルーシュ」 |